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遠州七不思議

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第5話 京丸牡丹

周智郡の一番北の山の中に、春野町気田という町があります。この町から三十キロも道もない山の中を奥へ行きますと、そこに『京丸』 という小さな村がありました。
そこには600年のむかし、源氏と平氏と戦って、負けた平家の人たちが、のがれて 来て住んでいるのだと言われています。
そしてこの村のけわしい気田川のふちに、美しい、大きなぼたんの花が咲くと言います...

むかしの、むかしのことでした。
ある日、この山の中の京丸の村に、若い男が一人迷い込んで来ました。食べるものはなく、安心して休む所もなく、男は険しい山道を歩いて来たことで、すっかり疲れ果ててものも言えないほどでした。
男は、この村の村長の家の戸口に立ちました。
『ごめん、下さいませ』
『どなたじゃな。見なれない旅のお人じゃな、どうなされた』
『はい、迷ってしまいました。おやどをお願いできませんでしょうか』
『うん、よしよし』

村長は親切に、食べるものをあげたり、世話をしてやりました。そのおかげで旅人は、しだいに元気になっていきました。ところで、この村長には、若い娘が一人ありました。娘もまた、やさしく親切に、男の世話をしてやりました。

こうして幾日かがたつと、男はすっかり元気になりました。ですが、若い男はこの村を出ようとはしません。それよりも、村の人達と一緒になって仕事を手伝うのでした。男はいつしか、村長の美しい娘と中むつまじく話をするようになりました。
村長はそのことを感付きますと、あたまをいためるのでした。それはこの小さい村では、昔からよそから来た人を村人とはしない、という決まりになっているからでした。村長は困ったすえに、
『旅の人、この村にはな、きまりがあるでのう、どこかへ行って下さらぬか、村長として、私からきまりを破ることは出来ませんでのう。よろしかったら、娘は、つれて行ってもよいでのう』
『はい、ありがとうございます』
つぎの朝、若い男は娘をつれて、京丸の村を出て行きました。村長は若い二人が、どこかで幸福に暮らすことを、心の中で、静かにいのっているのでした。
ところがです。
それから五ヶ月ほどした、ある日の夕暮れ時でした。
『お父さま、お父さま』と、裏口で、小さい声で呼ぶ声がしました。
.『だれじゃな』
村長が行って見ますと、それはあの若い二人が、みすぼらしいすがたで、しょんぼりと立っているのでした。
『あ、お前達か』
『はい』
『困ったな』
『・・・・・・』
『だが、村のきまりは、きびしいのじゃよ』村長は、厳しく言いました。
『はい、お父さまの、お顔さえ見れば・・・・・.』娘も男も泣いていました。今は、そう言うより外には、言うことはありませんでした。

二人は村を出た後、方々をさまよって歩きましたが、身寄りをもたない二人にはどこにも働かしてくれる所も、身をよせる所もなく、乞食のようにして暮らしてきた末に、京丸の村がなによりも懐かしくなり、つい帰って来てしまったのでした。
ところが帰ってみると村の掟があるからと、きびしい父の言葉、娘たちは淋しくなって、その夜、父の家に泊まりはしたものの、あまりの淋しさに、眠ることはできませんでした。さびしい、さびしい夜、ついに二人は、夜が明ける前に、そっと、村長の家を出ました。山の中でも、お月さまは美しくかがやいていましたが、二人には、その美しいお月さまの顔は見えませんでした。

つぎの朝、村の前気田川のふちに、二人の死がいが白く浮いていました。
『あッ、村長さんの娘が・・・』
炭やきに出た村の一人が、見つけたのでした。

イラスト:京丸牡丹 それから後、行き場のない二人のたましいは、毎年死んだ日になると、大きなぼたんの花となって、気田川のふちを、白くかざるのでした。そしてその白ぼたんの花は、一ひらづつ散って、気田川を流れて来るので、川下の人たちも、その話に涙を流すのでした。

京丸は遠州の北端、周智郡春野町気田の町から更に北東の山、又山の中の不便な所に、昔は戸数僅かに五戸ほどの村がありましたが、最近は次第に移住して、残るは村長の家が一戸となりましたが、今はその家も移住して誰も住んでいないといいます。昔は不便な所でしたが、今は林道が開発されて、自動車でも行くことができます。


遠州七不思議

遠州七不思議

遠州七ふしぎ(深蒸し茶)

かつての遠州、現在の静岡県中西部地方に伝わる昔ばなし「遠州七不思議」
秘園銘茶『遠州の七ふしぎ』は、風土に結びついてぬくもりを誘うこれらの物語に、同じ特色を重ねてその名を冠したもの。
香り高く、コクの深い味わいに。温暖な遠州の自然の彩と、一途に貫く茶づくりの心をしのんでご賞味ください。

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